「アフリカン・サウダージ」...コンゴの隣国アンゴラが産んだアフリカの宝石

Bonga: Mulemba Xangola
(CD, Lusafrica 362272, 2000)

Kimone Amarelo
Ngui Temane
Recordando Pio
Incaldido
Mulemba Xangola
Escapada
Bunguleiros da Noite
Kamusekele
Olhos Molhados
Falar de Assim
Mutokodias
Kanjonja
Kisangusangu

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Bonga: Kaxexe (推薦盤)
(CD, Times Square TSQ-CD-9037, 2004)

Kianje
Kaxexe
Marimbondo
Vira Moda
Poeira
Samania
Kambonborinho
Kiamangongo
Diakandumba]Kapakaio
Kutonoka
Moname
Nucos da Buala
Turmas do Bairro

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 アンゴラの音楽シーンがどのようなものなのか、私の溺愛するコンゴ音楽と比較してどうなのか、資料があまりにも少なく、全体をありありと知ることは殆ど不可能のようだ。しかし、地球の反対側の平和な日本に住む一般的国民でさえ、アンゴラが近年まで内戦に明け暮れ、大地に対人地雷が数多く残されていて、今でもそれが人々を傷つけていることくらいは知っている。その悲惨なイメージから率直に想像して、アンゴラの音楽というと、非常に厳しい印象を持つものであるかのように思われる。しかし、実際のアンゴラ音楽のほとんどは、どこかに置き忘れられた宝石のように、驚く程美しく独特の哀感があって洗練されている。この相反するイメージのギャップ、そしてその哀調の正体がいったいなんなのか、アフリカ随一の音楽大国コンゴの隣国であり、大西洋を挟んだ対岸の音楽大国ブラジルと同じく、旧ポルトガル植民地であるアンゴラ、その宗主国を代表する歌謡であるFado、これに影響されたという西アフリカの小国Cabo Verdeの音楽、これらに対する関心が私をアンゴラ音楽に引きつけた主な要因であった。

 アンゴラのポピュラー・ミュージックを紹介するにあたって、まずはBongaというシンガー・ソングライターを取り上げたいと思う。何故なら、おそらくアンゴラでは最もポピュラーな歌手であり、私が会ったアンゴラ人のすべてが、彼の名前には笑顔で反応したからである。Bonagは多作の人である。キャリアは非常に長く、1960年代には既にアンゴラの複数のミュージシャンと交渉があり、後述のコンピレーション「Angola 60's」では、 Elias dia Kimuezuの「Ressurreicao」という曲でコンガをたたいている。しかし、彼はもともとサッカー選手でスター的存在であったようだ。しかしヨーロッパ遠征中に、当時の宗主国であったポルトガルの植民地政策を批判する言動を取ったために、オランダに亡命せざるを得なくなった。この事が、彼の直接の音楽活動のきっかけとなった。データでは生まれは1943年という。2005年にイタリアのAriano Irpinoで会ったときには、そんな歳には思えなかった。非常に大柄で、独特のカスレ声が魅力といえば魅力、そこで好き嫌いの別れる歌手ではある。

 彼はベスト盤を含めて、2005年現在で25枚ものアルバムを発表している。アフロ・カリビアンのレーベル「Musique Tropique」には2000年までの、また総合的なアフリカ音楽紹介サイト「Leopardmannen」には それ以降のアルバム・タイトルが掲載されている。私はこのうち9枚を持っているのみだが、そのなかから6枚を紹介しようと思う。2000年以降に発売された彼のアルバムは、バック・アップする演奏陣とのコラボレーションも適切で、非常に厚みがあって聴きごたえ十分。なかでも、2004年に発売された 「Kaxexe」は、彼独特のカスレ声が呼び起こす哀感と、しっとりとした演奏が旨く絡み合って、何度聴いても飽きない名作である。

 



Bonga: Live
(CD, Lusafrica 462242, 2004)

Kambomborinho
Kamacove
Marimbondo
Kisangusangu
Recordando Pio
Mona ki ngi Xica
Ngana Ngonga
Olhos Molhados
Mulemba Xangola
Praca
Galinha Kassafa
Bonguinha
Kaxexe
Diakandumba
Sambila

Bonga: Maiorais
(CD, Lusafrica 462252, 2005)

Aname
Cheiro do Mato
Sao Salvador
Maiorais
Rebitanga
Banga Fukula
Genas de Gaby
Xica Kambuta
Male
Santo Antonio
Kuriondo Kanhoka
Tancinha
Sambila

 「Mulemba Xangola」から「Kaxexe」に到るプロセスは、Bongaにとってひとつの演奏スタイルの確立に繋がったと言う。「Bonga Live」は、2004年6月17日に、パリのライブハウス「New Morning」で行われたライブの録音である。マイナー・コードが多用される独特の雰囲気のなか で、徐々に盛り上がって行く不思議さ、哀感たっぷりに歌い上げられる曲に続く激しいダンス・パート・・・アンゴラ音楽の現場を垣間みる事の出来る、アット ホームな雰囲気の良いライブである。選曲は前2作からのものが多く、これらをベースにしたものであることが良くわかる。Ariano Irpinoで私が見たライブも、同じ路線と言って良いものであった。それに続く2005年の「Maiorais」は、寧ろシンプルな構成で、歌を聞かせ る方向に力点が向けられている。Bongaの新たな試みが期待される。

 



Bonga: Angola 72 (CD, Tinder Records 42 846642, 1997再発) (推薦盤)

Uengi Dia Ngola
Balumukeno
Ku Tando
Mona Ki Ngi Xica
Kilumba Dia Ngola
Muadikime
Luanda Mbolo
Mu Nhango
Paxi Ni Ngongo
Muimu Ua Sabalu

Bonga: Angola 74 (CD, Tinder Records 42 846652, 1998再発)

Venda Poro
Kubangela
Makongo
Roots
Ghinawa
Sodade
Marika
Ngana Ngonga
Ai-Ue Mama
Kinga Kueta

 Bongaのデビューと2枚目を取り上げておきたいと思う。いずれもシンプルな演奏だ。編成はギター、ベース、コ ンガ、ディカンザという竹製の長いギロ、それに歌である。ドラムやキーボードは使われていない曲が多い。悪くいえば一本調子だが、それに慣れるとそこはか とない歌心が見えて来る。Bongaの歌は、その声質の持つ印象深さもさることながら、歌メロが覚えやすく、何度聴いても飽きない愛おしさがある。これは 初期のアルバムにも最近の作品にも共通している。この2枚は、演奏がごくシンプルである分、そんな彼の持ち味が非常に良く出た作品だと思う。何故か、時々 無性に聴きたくなって、出しては聴いている。

 

Mario Rui Silva: Chants d'Angola "pour demain..."
(CD, Night & Day MRS1005/ND214, 1994)
(推薦盤)

Intro
Madya Kandimba
Henda ya Xala
Muxima
Mana Fatita
Xingilamentu
Ngakwambele Kya
Phalami
Kangrima



Mario Rui Silva: Luanda 50/ 60
(CD, MRS1022/ ND215, 1997)

Nzambi wangibhangela 'ny?
Masangu
Wakamb'o henda
Jwan dumingu yo
Kabhulu
Mabuku
Kolonyal
Xikela
Vina
Mukonda dya Mbimbi
O Muturi
Manazinya
Jimaka
Ki Ngikamba
Nga Sakidila
Hadya Tuvutu'ketu
Tukar'yetu


Mario Rui Silva: Cantos de Masemba; Luanda 1920/1930 (CD, MRS1088/ ND215, 1999)

Madya Kandinba
Kinjangu
Kungenu
Abel
Kyene kyambaga 'Mbwa j'oso
Jwankim Karola
Kazuze
Malembe
Humbi yoyo
Ngonga
O Kingongo
Ritmo de Sendele mu Palaya ya Mbiji
O Jaki kajikopu
Kibela Kyamwangana

 次に紹介するのは、Mario Rui Silvaというミュージシャンの「Chants d'Angola "pour demain..."」というアルバムである。これを初めて聴いたとき、私は正直言って、立ち上がることもできないくらい感動した。曲が美しいのである。 私はこれを買った当時は、まだリンガラ・ポップスに狂っていたから、当時のザイールの隣の国ということで、リンガラ・ポップスのひとつの亜流でも聴けるの ではないかと思って買ったのである。ところが、ここに繰り広げられていたのは、全く別世界の音楽だった。 曲調は、基本的にはアフリカン・ルンバなのだが、少なからずズークの匂いが感じられる。しかし、コンゴのそれとは違ってかなり繊細で緻密である。という か、線が細い。歌メロには明らかにファドの影響があって、夏の終わりの寂寞感のような郷愁は、ブラジル音楽に通じるものがある。CDの帯に「アフリカン・ サウ ダージ」というコピーがあるが、月並みではあるものの全く言い得て妙である。はかなく、もの悲しく、緻密にして優雅、それでいてダンサブル・・・。かねて からリンガラ・ポップスに欠けていると感じていた「何か」を、この作品に見たような気がした。

 ライナーによると、このスタイルのアンゴラ音楽の創始者は、Carlos "Liceu" (リシウ)Vieira Diasというミュージシャンで、1940年代に始めたものとされている。ジャンル名は「Semba」と呼ばれている。その後リシウは、1947年に 「Ngola Ritmos」という伝説的なグループを結成するが、事故で「全面的な鬱に陥った」とされている。この首都ルアンダで芽生えた音楽の芽も、コンゴやブラジ ル のようなシーンは形成できなかった。第二次世界大戦、植民地支配に対するレジスタンスと独立戦争、ちなみにアンゴラが独立したのは、他のアフリカ諸国から 大きく遅れて1975年の事である。その後も、東西両陣営に別れた列強の代理戦争の舞台となり、冷戦が終結したあとは資源の獲得をめぐる先進国の餌食とさ れ、絶え間なく続く内戦で国土は無惨に踏み荒らされた。アルバム全体から漂う曲調のもの悲しさは、長く続いた戦乱の世のはかなさから来るものなのであろう か。

 Mario Rui Silvaは、古くからのリシウの仲間であり 弟子だったのだが、生きながら葬られたも同然の師の志を正当に受け継ぐために、1940年代に師匠が始めたものと同じ演奏スタイル、同じクォリティで、彼 の楽曲の断片をひとつずつ収拾し、丹念に復元して、およそ10年の歳月をかけてこのアルバムを完成させたとある。しかし、このアルバムが1940年代の音 楽そのものを復元したものであるというライナーの記述には疑問が残る。モダン・ズークやサルサの明らかに現代 的な技法が聴かれるからである。まあ、そのような枝葉末節は措くとして、アフリカのものとしては珍しく、といってははなはだ失礼だが、実に丁寧に作りこま れた、どこかに置き忘れられた宝石のような輝きを持つアルバムである。 同じ意図によるものと思われる彼の作品がふたつ出ているが、内容は1994年発売の一枚目が最も良い。

 

Various: Angola 90's(推薦盤)
(CD, Buda Musique 82962-2, 1997)

Carlos Lamartine: Vunda ku Muceque
Banda Maravilha: Mana
Carlos Burity: Ojala ye ya
Lourdes van Dunem: Imbua
Elias dia Kimuezu: Luimbi
Bonga: Ngongo Jetu
Paulo Flores: Canta meu Semba
Filipe Mukenga: Tumbuto Yokulandiwa
Mario Rui Silva: Nzazi
Lulendo: Monama
Mito Gaspar: Hassa
Moises & Jose Kafala: Ngola
Simmons: Meninos
Afra Sound Star: Soko Soke

http://www.budamusique.com/


 次は、Angola 90'sという、1997年発売のフランス盤オムニバス。詳しいブックレット付きだが、フランス語とポルトガル語中心で、英語がかなり省略されているので 詳しいことはわからない。現在のアンゴラ音楽界の、いずれ劣らぬ大物ぞろいである。曲調は様々で、ロックありラップありレゲエありという感じだが、やはり 全体に漂うのは、どこか暗い戦争の影と、哀愁に満ちたメロディ、それはガスマスクをした人間を描いたジャケットの絵にも現れている。さきほどのMario Rui Silvaも、Chants d'Angola...から、Nzaziという短い曲が収録されている。最も印象深いのは、Simmonsという人の、Meninosという曲であろう か。あまりにも悲しい、怒りさえこもった歌の前後に、重いヘリコプターの爆音と砲声、破壊される建物の碎け散る音が聞かれる。明らかに内戦に対する怒りの歌である。 シリーズは、このAngola 90'sから始まり、下記の4枚のコンビレーションが発売されたが、現在入手が非常に困難になっているので、見かけたら即買いされるべし。いずれも独特の 哀切の響きがあり、非常に印象深い内容である。

 



Various: Angola 60's; 1956-1970
(CD, Buda Musique 82991-2, 1999)

Ngola Ritmos: Muxima
Ngola Ritmos: Diango Ue
San Salvador: Enzol'eyaya
Kaboko Meu: Na rua de Sao Paulo
Uniao Mundo: Amanha vamos
procura da chave
Mestre Geraldo Morgado: Mini saia
Minguito: Sant'Ana
Ngola Ritmos: Nzage
Duo Ouro Negro: Kurikutela
Sara Chaves: Kurikute
Elias dia Kimuezu: Ressurreicao
Lilly Tchiumba: Paxi Ngongo
Gingas: Lamento
Luis Visconde: Chofer de Praca
Quinteto Angolano: Kupassiala Kua Aba
Dimba Diangola: Fixe
Kiezos: Rumba 70
Vum Vum: Muzangola
Jose Viola: Oholwa
Ruy Mingas: Monangambe
Teta Lando: Mumpiozzo Ame

Various: Angola 70's; 1972-1973
(CD, Buda Musique 82992-2, 1999)

Lourdes van Dunem: Ngongo ya Biluka
Bonga: Balmukeno
Aguias Reais: Mariana
Dionisio Rocha: Lemba
Mila Melo: Vamos a Anhara
Manuel Faria: Mana Fatita
Os Kiezos: Milhorro
Super Coba: Finpantima
Cabinda Ritmos: Celestina
Ngoma Jazz: Belita Kiri-Kiri
Paulino Pinheiro: Merengue Rebita
Gambuzinos: Kalumba
Artur Adriano: Belita
Africa Show: As Meninas de hoje
Antonio Paulino: gienda ya Mama
Pedrito: Ngalenga Kubata
David Ze: Rumba Zatukine
Urbano de Castro: Semba Lekalo
Artur Nunes: Tia

 アンゴラで最初のポピュラー楽団であったNgola Ritmosが結成されたのは1947年である。録音は隣国ベルギー領コンゴのNgomaレーベルで行なわれている。Ngomaレーベルというのは、コン ゴのポピュラー音楽の草分け的存在であり、ここからコンゴの巨大な音楽シーンの歴史が始まることになる。当時のアンゴラ・ポップスの最もシンプルな演奏ス タイルは、ギターとコンガ、スティックで叩くボンゴに、身の丈ほどもある長いギロ、それにヴォーカルが乗る。その編成のまま、彼らはSembaをはじめ、 外来のRumbaやSambaを、はてはChoroまで演奏した。のちにボンゴがスネア・ドラムに、ギロがハイハット・シンバルに置き換わり、モダン・ ポップスへの体裁を整えて行く。当時、アメリカではモダン・ジャズが、キューバでは様々なルンバ音楽が、ブラジルではサンバの全盛時代であった。当然これ らの音楽は、レコードやラジオを通じて、広くアフリカにも入り込んで来た。近隣の同じ民族が属する三国が独立して行く1960年代、アンゴラ国内ではポル トガルの植民地政策の強化により、カーニバルをはじめ、音楽そのものがかなり抑圧された状況にあったといわれている。しかし、大衆レベルでは、土着の音楽 にこれらの外来音楽が融合し、連綿と演奏され歌い継がれて来たようである。その後1968年頃にはこれらの文化抑制政策は緩和され、ポルトガル資本で放送 事業やレコード産業も誕生したが、その主軸は隣国コンゴや、ブラジル・カリブ海地方の音楽の、国策としての輸入であった。こうした影響とそれによる音楽的 二重構造が、この2枚のコンピレーションにはっきりと記録されている。この時代の音は、今のSembaのように奇麗に固まっていない分、 よりバントゥー系の伝統音楽の土の匂い、ロックやブラック・ミュージックを取り入れたおおらかさが随所に聴かれて面白い。

 



Various: Angola 70's; 1974-1978
(CD, Buda Musique 82993-2, 1999)

Sofia Rosa: Kalumba
Os Jovens do Prenda: Lamento do Mae
Os Kiezos: Princeza Rita
Gimba: Otijkenlu ya Yndunduma
Os Bongos: Kazukuta
Taborda Guedes: Kamaka
Artur Nunes: Ua Ue Muangola
Carlos Lamartine:
 Pala ku nu Abesa o Muxima
Avozinho: Mama Mama Divua Diame
Prado Pail: Bartolomeu
Urbano de Castro: Revolucao de Angola
David Ze: Undenge Uami
Duo Misoso: Tchi Kolona
Santocas: Valodia
Kisangela: Solo do Maqui
Joy Artur: Kudizanga dia Veiangonongo
Santos Junior: Athu mu Nijila
Matadidi: Nkuwu
Carlos Burity: Manazinha
Belita Palma: Manazinha
Various: Angola 80's; 1978-1990
(CD, Buda Musique 82994-2, 2000)
(推薦盤)

Carlitos Vieira Dias: Canto a Luanda
Filipe Mukenga: Lemba
Voto Goncalves: Ngola Iami
Tonito: Kiukitukila
Waldemar Bastos: Velha Chica
Andre Mingas: Tchipalepa
Os Merengues: Sessa Mulemba
Dom Caetano: Tia
Calabeto: Tussokana Kiebi
Robertinho: Sanguito
Jacinto Tchipa: Male Male
Eduardo Paim: Caminho do Mato
Paulo Flores: Povo
Horizontes da Lunda Sul: Sepa Liami
Moises et Jose Kafala: Olomgembia
Os Merengues: Nguitabule
Teta Lando: Ntoyo
Mito Gaspar: Man Pole
Nani: Mwana wa Kumbua

 Angola 70's後編、初っ端の「Sofia Rosa: Kalumba」は、明らかなファドの唱法による女声に、アフリカ的なリズムとコード展開がつくアンゴラ音楽を象徴するような一曲。リンガラ・ファンには うれしいTrio MadjesyのMatadidiの隠れた名曲が異彩を放つ。ほかにもOs Kiezos、Carlos LamartineやCarlos Burity、さらに元Ngola Ritmosの女性歌手Belitaの美声も聴ける。Angola 80'sでは、Liceuの息子Carlitos Vieira Diasによる生ギターの素晴らしいソロ、さらにFilipe Mukengaの涙ちょちょ切れるスキャット、Waldemar Bastosの「Velha Chica」は彼のデビュー盤からの貴重音源、またPaulo Floresの「Povo」などがお奨めできる。なかには、「Os Merengues: Sessa Mulemba」のように、実にこなれたハイチ風コンパなどもあって実に面白い。2枚とも現在のアンゴラ音楽シーンを支える重要人物のほぼ入手不可能な名 曲を収録。いずれも彫りが深く味わいのある曲ばかり。上のAngola 90'sの次に推薦したい内容である。

 

Various: PALOP Africa!(推薦盤)
(CD, Stern's STEW46CD, 2001)

Manecas Costa: Ermons di Terra
Paulo Flores: Esta a Chegar a Hora
Bius: Que Calor
Sema Lopi: Cabra Preta
Nany: Zeka
G. Mario Ntimana: Avana Vaguvale
Manecas Costa: Fundo di Matu
Don Kikas (feat: Bonga): 1900 e Kabuza
Africa Negra: Ple Can
Paulo Flores: Refrao de Dapedida
Bius: Fidjos D'Africa


http://www.palopafrica.co.uk
http://www.sternsmusic.com


 このアルバムは、アンゴラに限らず、ポルトガル語圏アフリカ諸国の音楽を集めたもので、 現在入手できるこのジャンルの紹介盤としては最もお奨めできる内容である。「PALOP」とは、Paises Africanas de Lingua Oficial Portugues、すなわち「ポルトガル語が公用語のアフリカの国々」という意味で、具体的には、Angola・Cabo Verde・Mozambique・Guinea-Bissau・Sao Tome e Principeをさす。同じ意味を表す言葉に、「Lusafrica」という言い方もある。これは、イベリア半島西部すなわちポルトガルを表わす古名 「lusitano」に由来する合成語であり、Lusophone = Portuguesを話すアフリカの国という意味である。それはさておき、このアルバムは2001年、リスボンのアンダー・グラウンドなアフリカ音楽シー ンを世界に紹介しようとする、イギリスのプロダク ションの試みによって実現した。このようなテーマによる企画CDは非常に珍しく、これほど高い内容のものは他にない。こうして並べて聴いてみると、同じポ ルトガル語圏でも、国によって全く印象が異なりとても面白い。アンゴラやカボ・ヴェルデのように、ブラジルやポルトガル、カリブ音楽の影響の濃い、センチ メンタルなニュアンスの音楽を奏でるものもあれば、ギニア・ビサウのように、西アフリカらしく張りつめた声とシャープな打楽器の音を特長とするもの、ま た、モザンビークのように南アフリカ的な縦乗りの乾いた音楽を奏でるものなど。収録アーティストでコンサート・ツアーも行われ、詳細はウェブサイトで紹介 されている。このサイト、内容が非常に深く、使い手があるので、一度訪問されたし。配給は、独自の視点で質の高いアフリカ音楽の配給元として知られるロン ドンのStern's。良い仕事である。アルバムの内容としては、特にAngolaのトップ・アーティストに登り詰めたPaulo Floresの古い2曲の録音、「Esta a Chegar a Hora」は、同じテーマで同じメロディが病的なまでに執拗に繰り返され、その身の毛のよだつような暗さ、張りつめた緊張感、凧の糸が切 れたような唐突なエンディングは絶品、「Refrao de Dapedida」とともに1999年のアルバム「Perto do Fim」所収である。個人的にはこの2曲でノック・アウトされ、Paulo Floresを集めるきっかけとなった想い出深いアルバム。

 

Various: Putumayo Presents
An Afro-Portuguese Odyssey
(CD, Putumayo PUT204-2. 2002)

Paulo Flores: Ze Inacio
Mabulu: Maldeyeni
Eneida Marta: Na Bu Mons
Mendes Brothers: Cor Di Rosa
Ruy Mingas: Homenagem A Liceu Vieira Dias
Agusto Cego: Nha Fidjo
Banda Maravilha with Paulo Flores: Canta Forte
Manecas Costa: Ermons Di Terra
Bidinte: Considjo Di Garandis
Dulce Neves: N'tchanha
Ze Manel: Bu Fidjo Femia
Leonel Almeida: Ti Jom Poca
Jovino Dos Santos: Africa Mamae

http://www.putumayo.com


 上と同じ意図を持つ編集盤で、内容はこちらの方がずっとポップ。日本ではワールド系ヒーリング音楽専門レーベルの ような受け取られ方をされているPutumayoだが、選曲はなかなかアジである。アンゴラに限っていうと、Ruy Mingasの録音が日本で手に入るのは多分このアルバムだけであろう。あとで紹介する1973年のアルバムに収録されているBaden Powelばりのギター・インストゥルメンタルで、彼の美声が聴かれないのが残念だが、よくぞこの曲を、という感じだ。Paulo Flores「Ze Inacio」は2001年のアルバム「Recompasso」所収。「Canta Forte」は「愛地球博」来日時と同じセット、Pauloの甘いカスレ声と、格段に彫りの深い演奏を聴く事が出来る。この曲が収められた下記Banda Maravilhaのオリジナル・ アルバムの他の曲が余り良くないので、とりあえずこちらを買えば良いだろう。ほかには、ギニア・ビサウのアーティストからの選曲が多いが、中でも Eneida Martaのアフリカ人らしい、濃い色気の女声ヴォーカルが美しい。Putumayoには、アフリカ女声歌手ばかりを集めたアルバムもあり、そのような切 り口でアフリカ音楽を探求して行くのも一興かも知れぬ。

 


CD1
Luiz Visconde: Chofer de Praca
Arthur nunes: Mana, Zinha, Tia, Dito, Kisua ki ngui Fua
Os Kiezos: Princeza Rita, Saudades de Luanda,
Kughinguengamba, Muxima, Memorias de Lamartine
Urbano de Castro: Kia Lumingo, Maria da Horta, N'Vula
Tanga: Eme N'gongo Iami
Tony Von: N'hora
Tony de Fumo: N'ginda
Oscar Neves: Tia Sessa, Mundanda, Mabele, N'zambi

CD2
Paulino Pinheiro: Pachanga de Juventade
Paulo 9: Genro Ciumento, Fazer Bem
Avozinho: Mama Divua Diame, Sakeca Mukongo
Os Bongos: Lena
Jovens do Prendo: Solista Praguejado, Semba da Ilha,
Coio, Africa Merengue, Palace
Minguito: N'gandala ku Uganhala o Fuma
David Ze: Mona ku Jimbe Manheno
Tony Gaetano: Pangui Yami Uafua
Antonio Paulino: Kamba ba Laumba
Quim dos Santos: Ambula N'gui Zeka
Adolfo Coelho: Socana N'gam
Tino dia Kimuezo: Tino muengo yo dimba diobe,
Kibela Kiame

Various: Soul of Angola
Anthologie de la Musique Angolaise 1965-1975
(CD, Lusafrica 362392, 2001)

http://www.lusafrica.com

 1965年から1975年にかけての、アンゴラ・ポピュラー音楽を集めたものである。先述のAngola 60'sやAngola 70'sと重複するのはわずか2曲。このアルバムを聞いていると、アンゴラのSembaとはいえ、今のような切なさや繊細さ、郷愁の情感を前面に押し出し た演奏ばかりではなかった事が良くわかる。他はコンゴのルンバや、古いバントゥー系の伝統音楽の要素を色濃く残したものや、アフロ・キューバン音楽、さら にはロックやソウル、ファンクに影響を受けた多彩な演奏が多く聴か れる。翻って考えてみると、1990年代後半からの、特に内戦の和平合意が締結され、国の再建が始まった2003年以降にリリースされた膨大なアルバムに 共通して聴かれる、徹底したブラジルやカリブ色、これでもかというほどの甘く切ない哀感の調子はいったいなんなのだろうと、ちょっと考えさせられるコンピ レーションである。「アフリカン・サウダージ」的な情感を求める人には余り奨められない。より土着的、ロック的、大衆的なアンゴラ音楽の一面が感じられる アルバムである。

 

Various: Semba da Minha Terra
(CD, Sons d'Africa CD449/93)

Paulo Flores e Carlos Burity: Poema do Semba
Voto Goncalves: Onongombe
Carlos Burity: Minga
Banda Tons: Farinha Musseque
Samba Masters: Dibata
Carlos Lamartine: Caravana para a Delfing
Irmao Almeida: Kussukulo os adobes
Ye-ye e Bonga: Milongo
Angelo Boss: Big Boss
Gaby May: Merengue de St. Antonio
Impactus 4: Nao me enganas
Irmao Armeida: N'Gapa
Isidara Campos: Kota Zumbi
Os Kiezos: Princesa Rita

http://www.sonsdafricapt.com


 ポルトガルとカボ・ヴェルデとモザンビークにオフィスを持つSons d'Africaというレーベルの、ブートレッグ臭さがぷんぷんする何とも胡散臭いコンピレーション。「我が国のセンバ、アンゴラの音楽、世界一!」なん て書いてあるが、音源データやブックレットはおろか、中身は紙ピラ一枚のみで意匠もなにもなし。スペルもはなはだ危なっかしいが選曲は良い。特に大好きな Paulo Floresの名曲、次に紹介するQuintal do Sembaのラストを飾る「Poema do Semba」、2001年のアルバム 「Recompasso」所収のスタジオ録音が収録されているのが「買い」である。ウェブサイトが実に気取りがなくて良い。今のアフリカ、アフロ・カリビ アン な若者の趣味 を反映してて非常に面白い。特にリンク・コーナーは地元情報に満ちていてお役立ち。一枚で色々楽しませてもらえたアルバム。

 

Quintal do Semba: Ao Vivo
(CD, Maianga/ CNM128CD, 2003)
(推薦盤)

Prece
Kappopola Makongo
Rapsodia Angolana
Velho Andjolo- Funge de Domingo- Mufete
Rapsodia Brasileira
Maria das Mercedes-
Um Tom- Gostoso
Veneno- N'guitabule
Palame
Lemba
Luandei
N'zala
Consciente
Serenata Angola
Isua Ioso
N'guxi
Poema do Semba

http://www.maianga.com.br
http://www.cnmusica.com


 今やアンゴラ音楽を代表する歌手であり、2005年の「愛地球博」でも、音楽監督として総勢100人ともいわれる大部隊を率いて来日し、完璧なアレン ジメントで息もつかせぬステージ を披露してくれたPaulo Floresがプロデュースした一大叙事詩、2003年1月28日と29日にわたってアンゴラの首都ルアンダで行われたライブの記録である。同ジャケッ ト・デザインでDVDも発売された。これにはステージの模様の全編の他に、1960年頃の古いアンゴラ音楽の映像、特にNgola Ritmosの名曲「Muxima」の動画をはじめ、著名なアンゴラのミュージシャンのインタビューなども収録されている。特にこのインタビューでは、ブ ラジルの SambaとアンゴラのSembaの関係について議論している場面があり、ポルトガル語のため私には理解不能だが、アフリカとブラジルの音楽の関係につい ての一定の見解が示されているのではないかと思う。

 さて、このQuintal do Sembaはグループの名前ではなく、アンゴラ音楽のを魅力内外に紹介するための映像記録と、その記念としての上のステージを行うために編まれたプロジェ クトの名称である。先述したように、また周知の事実だが、アンゴラは2002年11月に内戦両勢力の包括的な和平合意が成立して以降、安定した状態が続い ており、国の再建が急速に進んでいる。このプロジェクトは、「内戦と地雷と貧困の国」というアンゴラの不本意なイメージを払拭し、「安定と成長と資源の 国」という新しいアンゴラを内外に示すための、国を挙げての基本政策の、いわば音楽編であるといえるだろう。

 参加ミュージシャンがすごい。総監督でありリード・ヴォーカルのPaulo Floresをはじめ、Liceuの息子Carlitos Vieira Dias (v,g)、来日したBanda MaravilhaからMoreira Filho (v,g)・Marito Furtado (dr)・Chico Santos (perc)・Miqueias Ramiro (Key)、ほかに新進気鋭のパーカッショニストで、やはり来日したDalu Rogeeらの名前も見える。いわば、アンゴラ・ナショナル・オール・スターズ。内容は、Paulo Floresのレパートリーの他に、Carlitos Vieira Diasが父Liceuの曲を歌ったものや、Teta lando、Elias Dia Kimuwezuの古い名曲なども扱われており、見事なアレンジと集中力みなぎる演奏、繊細さとがんがん乗せるアフリカ音楽の醍醐味が両立している。エン ディングは、あえて盛り上げず、Sembaらしい哀切のメロディを聞かせてしっとりと終わる。こんなアフリカ音楽もあるという、ミス・マッチの見事な証 明。ちょっと出来過ぎの感はあるけどね・・・

 

Paulo Flores: Xe Povo(推薦盤)
(CD, Maianga/ CNM127CD, 2003)

E Doce Morrer na Mar
San Francisco
N'guxi
Fumo
Luanda dos Afogados
Camarada Pato
Belina
Si un Catada
Manico
Falso Testemunho
Be Be
Xe Povo


 アフリカ音楽というより、今まで聴いた事もないような、ブラジル臭くない不思議な良質のMPBを聴いているような 錯覚を覚える。録音はルアンダとリオ・デ・ジャネイロで行われており、Paulo Floresのバックとしては常連のBanda Maravilhaから、Moreira Filho、Marito Furtado、Chico Santosの他、Joao Ferreira、Carlitos Vieira Dias、あとで紹介するOs Kituxi、Wyza、Cabo Verdeの人気ギタリストで歌手のTito Paris、さらに、なんとチェロで、あのJaques Morelembaumが参加、非常に重要な要素を担っている。作品全体を包む印象はきわめてクールであり、ある意味では非常に実験的、ある局面では美し く繊細で、別の局面では躍動的なアフリカ音楽の本領が発揮される。クラシックのオーケストラのように緻密に作り込まれた部分は、まさに最近の Caetano Velosoの作品を思い起こさせ、アレンジの隙間からほとばしるように披露される躍動感は、1970年代のキンシャサ・ロックの濃厚な匂いがする。その 違和感とも快感ともつかぬ独特の魅力は、美しさの中に刃を潜ませる実験的な指向性を予感させ、この作品の上からArto Lindsayのジャッキーン、ギョエエエエンていうギターをかぶせてもそのまま通用しかねない程。いずれ彼がPaulo Floresをプロデュースする機会もあるのではないか、そんな期待を抱かせる、これまたミス・マッチな魅力に満ちた名作である。Paulo Floresの旧作がオムニバスで垣間みるしかない現状では、彼の最高傑作と言っても良いであろう。愛聴盤。

 

CD1

N'guxi
Xe Povo
N'zambi
Ze Inzcio
Marika
Inocenti
Cabelos da Moda
O Povo
Minha Velha
Cherry, Garina e
Processos da Banda
Meu Segredo

CD2

E Doce Morrer na Mar
Menino Destino
Luanda dos Afogados
Belina
Serenata a Angola
Minha Senhora
Makalakato
Ramiro
Falso Testemunho
Clarice
Esta a Chegar a Hora
Poema do Semba

Paulo Flores: Vivo (CD, Maianga MG1301C, 2004)

http://www.maianga.com.br

 2004年5月5-7日にルアンダで行われたライブの抄録である。「Xe Povo」からの選曲が中心、基本的にはクールで繊細で、哀愁に満ちた曲調だが、やはりライブならではの観客の熱狂が伝わって来る。他に旧作からの演奏も あり、以上3枚以外の彼のアルバムが手に入りにくい今、貴重な音源といえる。ちなみに、Paulo Floresの作品としては「Brincadeira Tem Hora (1993)」・「Inocenti (1995)」・「Perto do Fim (1999)」・「Recompasso (2001) 」という4枚のアルバムの存在を確認している。本ライブの布陣は前作「Xe Povo」とほぼ共通するが、ピアノとアコーディオンにCiro Bertiniという名前が見える。この演奏がまた良い。Jaques Morelembaumももちろん参加。また、クレジットはされていないが、その音色と写真から判断して、Cabo Verdeのシンガー・ソングライターTito Parisも参加していたと思われる。ライブである分、前作のようにアレンジと録音技術によって作り込んだ味わいは望めないが、ステージでまた別の提示の 仕方をしているところはさすが。彼等の演奏やアレンジのこなれ方は、アンゴラという困難な国にあって、あるいはリス ボンのアンゴラ人コミュニティの中にあって、いや、おそらく亡命を余儀なくされた先々の国での音楽的研鑽の賜物か、十分にインターナショナルなシーンで、 長い時間をかけて鍛え上げられて来たものである事が実感できる。すばらしい。先にも引き合いに出させて頂いたが、Caetano Velosoのライブをどこか彷彿とさせる出来である。ライブを締めくくるのは、身の毛もよだつ恐ろしさを秘めた名曲「Esta a Chegar a Hora」と、Carlos Burityとデュエットする「Poema do Semba」の号泣のメドレー、あああもうあかん。イクイクイクイクイク・・・・

 

Elias Dya Kimuezu: Os Grandes Successos, Vol. 1 (CD, Kilamba EDK1, 2005)

Agostinho Neto
Xamavu
Entrudu
Kwieku
Lamento de Mae
Mona-N'denge
Mwa-Lunga
N'zala
Ressureicao
Sao Nicolau
U-N'gamba
N'zon-N'zon


 この歳で夢精はいかんよね。ところでこのCDは「愛地球博」アフリカ・パビリオンで購入したものだが、Elias Dya Kimuezuも8月頃「愛地球博」に来ていた。博覧会場や周辺の公共施設などで何度も演奏していたらしい。アンテナを張り巡らせていたのに全く情報が 入って来なかった。直接会えなかった事はかえすがえすも残念である。Elias Dya Kimuezuは、1950年代初頭からの長いキャリアを持つ、アンゴラを代表する古参のシンガー・ソングライターのひとりである。このアルバムはCDと しては初録音、選曲は1960-70年代の彼の往年のヒット・ソングで、録音はMaiangaのルアンダのスタジオ、編集はブラジルで行われた。歌も声も 渋い。良く通る声ではない。しかし、まったりとした気品が感じられて非常に良い。アレンジは今風のブラジル・カリブ路線だが、良く聴くと古いSembaの 醍醐味 がしっかり残っている。演奏はBanda Maravilha、ゲスト・ミュージシャンにはあとで紹介するKituxiのほか、「Ressureicao」という曲でLourdes van Dunemが特別参加。先に紹介した「Angola 60's」にも同曲が収録されているが、Rui MingasとTeta Landoがギターを弾き、Bongaがパーカッションを入れた初期の演奏と聴き比べてみるとなお一層面白い。また、アシスタント・プロデューサーに、 Wyzaの名前も見える。このアルバム、老境に入った歌手をもり立てようと、阿吽の呼吸で多彩な演奏を見せるBanda Maravilhaの好プレイが印象に残る。さきのリーダー・アルバムとは違って、実に細かい音の襞まで作り込まれていて聴きごたえ充分。しかし、地味な Kimuezuの声に対して、演奏が少しゴージャスになりすぎている感がある。ジャケット写真やデザイン、ブックレットは非常に美しく、丹念に制作された事が伺われる。

 

Carlitos Vieira Dias: As Vozes de um Canto
(CD, Maianga MG1201C)

Birin Birin
Palame
Marcalina
Lemba
Colonial
Club Maritimo Africana
Passo do Sangazuza
Nzala
Mukajame
Tabernaculo
Eme n'gui mona n'gola

http://www.maianga.com.br


 言わずと知れたアンゴラ・ポピュラー音楽の父Carlos "Liceu" Vieira Diasの息子、太い良く通る声とギターの超絶テクニックがありながら、味わい深い曲を描くシンガー・ソングライターである。ジャケットの水彩画は、おそ らく往年のNgola Ritmosをイメージして描かれたものであろう。素朴な、つかの間の平和の時間をいとおしむような、優しい雰囲気である。収められた曲は、数曲のカバー の他は、トラディショナルや父"Liceu"とCarlitos自身の曲。いずれも楽曲、ギター、声ともに素晴らしい。原曲は、歌い込まれた味わい深いも のである事が解る。その味わいはかけがえのないものであり、このアルバムは、そうした心の耳を以て聴かれるべきだと思う。しかしながら、音作りの基本的な 部分は納得できるのだが、曲の仕上げが作為的すぎて、先のKimuezuのアルバム同様の戸惑いを禁じ得ない。録音はMaianga、どうやら、この レーベルの色づけのように思われるが、かなり濃厚なサルサ色があり、それは上記Quintal do Semba以下のアルバムに共通する。それに慣れてしまえば、本来のCarlitosの「歌」が見えて来るのだろう。その取って付けたようなサウダージ 感、あえて懐古趣味を前面に出すような切り口が、国策としての音楽のあり方を伺わせるようで残念だ。バックにBanda MaravilhaのドラマーMarito Furtadoや、新進気鋭のパーカッショニストDalu Rogee、スタジオ・ワークスのアシスタントにWyzaの名前も見える。彼の古い音源の体系的な再発を期待する。

 

Ruy Mingas: Temas Angolanos
(CD, Strauss ST1067, reissued in 1995)

Makesu
Ngidifangana
Pango Dia Penha
Mama Terra
Morro da Maianga
Quem ta Gemendo
Susana
Muimbo ua Sabalu
Hoola Hoop
Hoji Iafu
Maribondo ua ngi lu Mata
Apolo 12
Adeus a Hora da Partida
Poem da Farra
Homenagem a Liceu Vieira Dias


 短めのあっさりとした歌曲が並ぶアルバムである。Ruy Mingasの名は、先のコンピレーション「Angola 60's」に、既に登場している。Elias dia Kimuezuの「Ressurreicao」という曲の共演者として、また「Monangambe」という彼自身の曲の演奏者として。Ruy Mingasは、Carlos "Liceu" Vieira Diasの甥であり、Ngola Ritmosの次の世代をになう希望の若手であった。しかし、父とLiceuが人種隔離政策に反対する言動を取ったり、彼自身の植民地政策批判の歌のた め、アンゴラ国内では1974年まで作品を発表することを許されず、1960年代は主にリスボンのクラブで、BongaやLily Tchiumba、Teta Landoなどと活動していた。このアルバムにおさめられているのは、この頃の作品である。アンゴラが独立するのが1975年であるから、その直前の時期 と言って良い。アンゴラは、アフリカの近隣諸国が独立を果たした1961年頃から、独立を目指す勢力によるゲリラ戦が活発になり、それは15年も続いた。 1975年に独立を達成した後も、それまで独立を目指して団結して来た各勢力の亀裂が深まり、首都ルアンダと周辺部を実効支配するMPLAと、その他大部 分を勢力下におくUNITAなどの反政府勢力の間で、27年間にわたる激しい内戦が続いた。ソ連やキューバをはじめとする東側陣営はMPLAを、アメリカ をはじめアフリカの西側陣営の盟主をもって任ずる旧ザイール共和国(現コンゴ民主共和国)や南アフリカなどの西側陣営はUNITAを支援し、イデオロギー の対立というよりは、専ら列強による鉱物資源の利権確保の欲得と、国際的な影響力の保持のために、アンゴラは実に42年間にわたって激烈な戦場と化し、人 間性と音楽性は、政治力と武力による壊滅的な打撃を被った。前線に慰問に行って対立勢力に虐殺されたアーティストは数知れず、活動を続けるためにはどちら かの勢力につくか亡命するか、さもなくば沈黙するしか方法のない暗黒の時代が続いた。繰り返すようだが、そのような彼の経歴やアンゴラの歴史を知る今にし てこれを聞くと、地味であっさりした曲が並んでいる。しかし、アンゴラの音楽を聴く時、その殆どに共通して聴かれる、割れたガラスのように鋭利な哀調の情 感は、 内戦によってまるまるひと世代の永きにわたって流された膨大な血液の、生々しい傷口が発する叫び声なのか、あるいはポルトガル人が大航海時代から植民地時 代を通じて世界中で殺戮した、膨大な人間の怨念がファドを通じて乗り移るのか、あまりに深くて黒い、声にならない声を感じざるを得ないのである。ただ、不思議にそれらは後味を残さずに消えて行く。特にこのアルバムの、どちらかと言うとあっさりと仕上げられているその様子は、それだけに却って傷の深さが思わ れてならない。アンゴラは2002年の11月に各勢力が包括的和平に合意し、以後、徐々に治安は安定して来ているという。何よりの救いは、この和平にはか なり持続的な希望が持てそうだということである。現在、地雷とともに大地に埋もれたアンゴラのポピュラー音楽の発掘や保存活動が始まっており、さまざまな 成果を上げている。先述のLiceuの遺産を集積し、数枚の宝石のように美しい作品に仕上げたMario Rui Silva。そのLiceuも参加した貴重なアンゴラの音楽的記録であるこのアルバムもまた、そうした一連の活動の成果に他ならない。

 

Disc 1:
Canto de Kianda (Intro)
Minha Terra, Terra Minha
Mar de Cacongo
Canto de Kianda
Baptismo de Mar
Kianda
Eu Vi Luanda
Velho Andjolo
Domingas Kanhari
Contrasteio Teu Roseo Seio
Noite Minha Companhia

Disc 2:
Rebita Luanda
Mulher de Homen Amante do Mar
Quando Eu Voltar de Todos os Mares
Vida Durado Mar
Clube Maritimo Africana
Um Acoite na Noite
A Morte de um Marinheiro
Comite 4 Fevereiro
Da Viagem Sem Ser de Mar
Desespero da Sereira
O Mabangueiro
Canto de Kianda (Final)


Filipe Mukenga/ Filipe Zau:
Le Chant de la Sirene
- Le Sortilege
(CD, Lusafrica 08743-2, 1995)

http://www.lusafrica.com


 Filipe Mukengaというアーティストは、上のアンゴラ・コンピレーションや、「Quinta do Semba」にも登場した重要人物である。タイトルは「人魚の歌・魔法」という程の意味である。おそらく何かのプロジェクト、それも結構大掛かりな企画の ために制作されたものとおぼしき、ストーリー性を連想させる大曲が並んでいる。しかも、ただの一曲を除いて、アンゴラらしい曲は登場しない。むしろ私の耳 には純然たるMPB、Milton Nascimentoのそれに聞こえる。曲調は重すぎず軽すぎず、静かすぎずうるさすぎず、上質のMPBを聴いている心地よさに包まれる。何らかの資料が あれば、もう少し書く事も出来るのだが、今のところ私にはこのような紹介文を考えるので精一杯だ。ジャケットにアンゴラの首都ルアンダの浜辺が描かれてい る。左下に人魚が泳いでいるが、空が黄色い。この色合いが微妙で、これがこの作品を読み解く鍵なのかも知れない。

 

Wyza: Africa Yaya
(CD, Maianga MG1401C)

Kana Ya
Mbangala
Mawe
Africa
Kaxi
Ngudi
Vava Ngina
Miezi
Nzemba
Mpasi
Nganga Nvuala
Africa (Remix)

http://www.maianga.com.br


 若手アーティストである。ジャケットとタイトルから連想するイメージと、音楽の内容は大きく異なる。非常に実験 的な作品。例えるならば、Arto Lindsayの「Salt」に代表されるブラジル系クラブ・サウンド(という言い方には異論もあろうが)の最近の音作りに近い。プロデュースは Reinaldo Maia、骨格まで肉をそぎ落としたシンプルな音構成、時折炸裂する過激なノイズ、そして数曲で聴かれる彼自身の落ち着いたギターがWyzaの美声と微妙 にマッチする・・・その手腕に脱帽。ベースがアフリカ音楽であるだけに、なお一層のことゾクゾクするのがこの作品の醍醐味である。Wyzaの声は音程が確 実で、若々しくて良く通る。それにメロディが良い。それだけでも充分成立する出来映えだが、演奏がそれを殺していないどころか、あえて主役と対峙して両者 の緊張感が有機的に音楽の中に生きているところが素晴らしい。こういう言い方は失礼にあたるかも知れないが、アンゴラにこのようなセンスで音楽を完成させ る人があるという事は、実に意外だ。好きです私は。このCDは「愛地球博」にDalu Rogeeとともに来日して演奏したステージを見た後で、アンゴラ・ショップで購入した。本人とも少し話したが、余り口数の多い人ではなかった。ステージ はデュエットで持ち時間も少なかったため、本領発揮とは行かなかったようだが、研ぎ澄まされた音の掛け合いはライブで見た。熱狂的伝統アフリカ音楽ファン には余り奨められない。予定調和をぶっ壊す音楽の愛好家に強くお奨めしたい。

 

Grupo Kituxi: Dingongenu (CD, Zona Musica ZM00015)

Dingongenu
Vale-Vale
Ulumba
N'gitabule
Damas do Pipa
M'bala-M'bala
Dingongenu da Mona
Palasa
Mu-Ilumbe

 これも「愛地球博」で来日したGrupo Kituxiのメンバーから買った。リーダーと思われるKituxi氏は、他のアンゴラのミュージシャンの作品にクレジットされているのを良く見かけるの で、コンポーザー、アレンジャーとしても活動しているのであろう。演奏内要は、ジャケットの通りアンゴラの伝統音楽である。どの地方のどの民族のものかに ついては、これからの探求課題。私の専門分野であるコンゴの伝統音楽と比較すると、コンゴ川下流域のBa-Kongo州の音楽に良く似ている。ポルトガル 人が、初めて今のアンゴラの地に上陸したのは、当時のBakongo王国が隆盛を極めた15世紀末といわれている。この王国は、伝統的にカーニバルの盛ん な国であり、その音楽は19世紀までかなり体系的に受け継がれて来たようだ。しかし、何世紀にもわたる植民地支配の過程で莫大な数の現地人達が奴隷として かり出され、中南米各地にすばらしい混血音楽の種をまいた代わりに、19世紀に流行したヨーロッパの舞曲がこの地に伝わり、アンゴラではそれらが混血して Massembaと呼ばれるようになったとされている。彼等は、そのブラジルの音楽的影響が、アンゴラに波及する以前からあるスタイルを守り続けている、 と言っていたが、演奏を聴くと、ブラジル北東部のリズム・パターンの特長や、サンバに用いられるスルドゥの低音のニュアンスなどが随所に聴かれる。これ が、実は逆輸入されたブラジル音楽に影響されたものなのか、やはりそれ以前のものなのか、もし彼等の言う通りだとすれば、彼等のやっている事は、現在のブ ラジル音楽の直接の音楽的ルーツだという事になる。いずれにせよ、アフリカ音楽のみならず、ブラジル音楽、特に北東部の音楽に興味のある人に是非とも聴い てもらいたいアルバムである。クレジットの楽器名を記しておこう。( )内は裏付けを とっていないので間違っているかも知れない。Hungo(ビリンバウ?)、Kisangi(親指ピアノまたは長い竹筒をたたく楽器?)、Muita(ク イーカ?)、Dikanga(長い竹筒のギロ、Dikanza?)、Mukindu(親指ピアノまたは長い竹筒をたたく楽器?)、Tambor(太鼓)。 使われている太鼓は、ずんどうの「コンガ」の原型の形をした素朴なものだが、少し短くて、肩から斜めにかけて両手でたたいていた。高低一本ずつを二人でコ ンビになってたたき分け、リズムの1拍目と3拍目に、高・低の順でオープン・トーンを鳴らすところが、ブラジルのスルドゥのたたき分けのようで面白かっ た。

 

Waldemar Bastos: Pretaluz (推薦盤)
(CD, Luaka Bop 68089-90029-2, 1998)

Sofrimento
Rainha Ginga
Muxima
Kuribota
Morro do Kussava<br> Minha Familia<br> Menina
Querida Angola
Kanguru

http://www.luakabop.com

 寡作で知られるWaldemar Bastos、1998年発表の4枚目のアルバムにして、彼の名を世界に知らしめた作品である。Luaka BopといえばDavid Byrne、しかもArto Lindsayプロデュースによる、アンゴラ音楽の逆説的な特性をものの見事に形にした作品。全体から受ける印象は、非常に暗くて重い。しかし感情に訴え るしつこいイメージ戦略ではなく、たたみかけるような力強さがあちこちに聴かれる。タイトルの「Pretaluz」とは、「黒い光」。逆説そのものをタイ トルにしたものだ。Semba特有の、まだ湯気を放つ痛々しい傷の恐 ろしさを秘めた音、クレジットではArto Lindsayは演奏に参加しているとは書かれていないが、その明らかな音色と絶妙のセンスから、バック・グラウンドで彼がギターを構えていることは良く 解る。その言いようのない暗雲の中を、細やかなコンゴ風のリズム・ギターが常に歯切れよく刻まれている。そして耐え切れなくなったように、唐突にダンス・ パートが炸裂する。それはまるで、スコールの最中に突如として晴れ渡るキンシャサの空のようだ。ここに提示されている世界は、平和な恵まれた環境で生まれ 育った健全な音楽ではない。植民地時代に生まれ、目と鼻の先のアフリカ諸国が独立して行く中、自由と独立を求める戦争に少年時代を過ごし、 旧宗主国から2度も国を追われ、アンゴラを代表するアーティストに登り詰めながら、独立後の東西代理戦争のどちら側にもつく事を拒んだために何度も命を狙 われ、Jose Eduardo dos Santos大統領と、当時の反政府勢力のリーダーであった故Jonas Savimbiの、両方をその音楽で踊らせた唯一のアーティスト。しかし内戦で実の父と息子を殺され、南米や東欧諸国を転々とし、リスボンとパリで主に亡 命生活を送りながらも、音楽への執念を捨てなかったシンガー・ソングライターの、平和と楽天主義を希求する気持ちに溢れた芸術作品である。彼は、このアル バムのライナーを次の言葉で締めくくっている。「私の仕事に横たわる最も誇るべき逆説とは、すなわち愛の力であり、それは(平和や愛に満ちた 家族のためのものというよりも)、戦争や人間の残虐性という心の病に効く解毒剤だということだ。」

 

Waldemar Bastos: Estamos Juntos
(LP, EMI/ Odeon; Serie Luxo 31C 062 421 258, 1983)

Marimbondo
Tereza Ana
Colonial
Humbiumbi Yangue
Mungueno
Lubango
Carnaval
Velha Chica

 そのWaldemar Bastos若き日のブラジル時代のデビュー・アルバムである。全体を通してジャケット写真そのままの、非常に楽天的な印象の曲が並んでいる。基本的に穏健なMPBまたはBossa Nova、ときとして少しSembaっぽくアンダー・トーンになりかけるとフェイデ・アウトしてしまう。サポートしているメンバーの中に、Jacques Morelembaum・Miucha・Wanda Sa・Danilo Caymmiの名前が見えると思って驚くなかれ、コーラス・アレンジはJoao Donato、ストリングス・アレンジはDori Caymmi、さらにChico Buarque・Martinho da Vilaがゲスト参加している。しかし、全体として印象の薄い軽いタッチの作品である。そのまま終わるのかと思いきや、最後の最後に「Angola 80's」に収録されていた「Velha Chica」、Martinhoとデュエットで絶唱、被っていた猫の帽子をかなぐり捨てるかのように、一気にアンゴラの突風があたりを水浸しにする。ポルトガル語の歌詞なので憶測の域を出ないが、内戦の悲惨さによって、か弱い女性までもが陵辱され殺されて行く、アンゴラの真の独立を遠いブラジルから切望する絶叫に近い歌声に、胸が締め付けられる思いがする。この能天気なジャケット、その屈託のない表情、彼のいう、悲惨さの逆説的表現としての楽天性の見事な表現であるといえば、あまりにも穿った見方かも知れない。最後の曲で、それまでの軽薄とさえ聞こえた楽曲の意味が実感できるすばらしい作品である。

 

Waldemar Bastos: Angola Minha Namorada
(CD, EMI 0 777 7 93925 2 0, 1990)

Ndapandula
Nduva na Morte da Cantora
Kioso nga ndo Fua
Zuim Zuim
Morna Cabo Verde
Ngana
Eu sou do Kimbo
Angola Minha Namorada
Waldemar Bastos: Pitanga Madura
(CD, EMI 0 777 7 99430 2 9, 1992)

Margarida
Primavera
Futuro Melhor
Basolua Balukaco
Foi Deus
Guana
Saudacao a Angola
Pitanga Madura
Waldemar

 レビュー執筆中

 

Waldemar Bastos: Renascence
(CD, Times Square TSQ-CD-9043, 2005)

Outro Tempo Novo
Aqua do Bengo
Esperanca
Georgina
Pitanga Madurinha
Dongo
Sabores da Terra
Paz Pao e Amor
Renascence
Twende Vossi
Kuribota
Pitanga Madurinha II

 Waldemar Bastosの5枚目のアルバムである。特徴的なのは、リズムセクションにSam MangwanaやT.P.O.K. Jazzのリズム・ギタリストとして活躍したDizzy Mandjekuと、Viva la Musicaのヨーロツパ進出当時のセッション・ドラマーであり、コンゴのビリー・コブハムの異名を持つKomba Bellowの参加である。この二人によって、だしの風味とコクの部分がグッと引き締まった感がある。さらに、彼の東欧放浪時の関係からか、トルコ人のストリングス7人編成が、曲によってバックを付ける。これがアフリカ一辺倒の情感でなく、アジアチックな奥行きを作品に与えていて素晴らしい。このアルバムは、2003年の和平合意を記念して国立競技場で行われたフェスティバルに参加するためにルアンダに戻ったWaldemar Bastosが、平和にわくアンゴラを見て深く感銘を受け、2年近い歳月をかけて完成させたものという。「Renascence」とはすなわち「再生」、2003年の和平合意を受け、いよいよ国の再建が始まった事に対する彼の率直な賛辞であると同時に、50歳の節目を迎えての、彼自身の「再生」あるいは 「再起動」であるのかも知れない。前方に広がるのは荒野だが、彼の心はジャケットの青空のように澄み切っているのであろうか。前作の重苦しい雰囲気に比 べ、アンゴラらしい彫りの深さと哀感は残しながらも、晴れやかな空気が全体を支配している。今まで出会った全てのアンゴラ人が口を揃えるように、この和平 合意は、われわれが想像する以上に感動的な出来事であったようだ。それほどの苦難の歴史をたどって来たということであろう。コンゴ音楽のコアなファンの耳 からすれば、ダンス・パートの詰めの甘さが若干耳につくだろうが、それは重箱の隅をつつくようなものであって、大らかにこの作品の持つ平和と楽天主義を受 け入れたい。アンゴラらしいサウダージ感覚、アジアチックな広がり、コンゴのルンバの持つ楽天性が、見事に結晶したものといえないだろうか。

 

(CD, No Number, JUNO Hamburg
& Kontextrecords, 2006)
http://www.playup.org/music

AYO: Play Boy (Nigeria/Germany) 3:19
Arto Lindsay: O Futebol (Brazil/USA) 3:20
Patrice: Kings Of The Field (Germany/Sierra Leone)
Burnt Friedman feat. Theo Altenberg: Surprise Me (Germany)
Daara J: Assiko (Senegal)
Africa Unite: Play Another Game (Italy)
Badie: Rever de gloire (France/Ivory Coast)
JaKoenigJa: 1-0: E sorte que tivemos sorte (Portugal)
Gecko Turner: Que Papa e esse? (Spain)
Waldemar Bastos: Viva Angola (Angola)
Jun Miyake: The Silence Ahead (Japan)
Orientation: Altin Goal (Turkey)
Ghetto Blaster: Play That Ball (Angola/Cameroon/France/Sudan)
Leila Pantel & Whatmindzdoo: Ginga (Brasil)
Russell Brothers feat. Rahat Ali Khan: Akhian Udeek Diyan (Pakistan)
Weasel: Play Up Da (Portugal)

 2006年に行われた「FIFAワールドカップ・サッカー」ドイツ大会に合わせて編まれたサッカー・ソング集である。凝り固まったものばかり聞いているので、たまにこういうものを聴くと世界が広がった感じがする。この中にWaldemar Bastosが「Viva Angola」という曲を寄せている。この年アンゴラは初めて「FIFAワールドカップ・サッカー」に出場する事が出来た。アンゴラを世界にアピールする意味で、とても象徴的な出来事だったと思われる。それを讃える歌が寄せられているので紹介した。このアルバムには、他にもArto Lindsay、わがドラムの神様Jaki Liebezeitと来日したBurnt Friedman、日本からは三宅純が曲を寄せている。全体としては、ワールド・ポップ系のクラブ・ミュージックという感じで、アーティストのミクスチュアもなかなか面白い。

 


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