「アフリカン・サウダージ」...幻想のリゾート「カボ・ヴェルデ」の音楽
Bola Azul |
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Teofilo Chantre: Azulando (Lusafrica 362882, 2004) |
アフリカ大陸の西端からさらに600km西の大西洋上に、カボ・ヴェルデ(Cabo Verde「緑の岬」)という名の島国がある。ここの音楽は、Cesaria Evoraが紹介されてから、日本でもにわかに脚光を浴びるようになった。特徴的なのは、アンゴラの音楽と同じく、やはり繊細で美しく、優雅でもの哀しいメロディである。
カボ・ヴェルデは、15世紀末にポルトガル人によって「発見」されたときには無人島であったらしい。そこへ西アフリカから多くの奴隷が送り込まれ、ポルトガル本国からも移民が入植した。その後、19世紀末に奴隷貿易が廃止されるまで、そこはアフリカとアメリカの両大陸をつなぐ奴隷貿易の拠点だったという。 つまり、アフリカからアメリカへ、おそらくその多くはカリブ海や南米大陸へと送り込まれていった中継地のひとつだったということである。ということは、おそらくアフリカの多くの音楽も、ここを通過し、或いは種を落として、キューバやプエルト・リコなどに流れていったと想像できる。しかも、支配民族であったのはポルトガルである。かつて無人島だったところに、様々な音楽的要素が複雑に種を落としていったのである。また、無人島であったということは、すなわちカボ・ヴェルデの国民は、全て自国にはルーツを持っていないということでもある。カボ・ヴェルデの音楽のほとんど全てに共通する郷愁に近い情感は、おそらくそのあたりの事情とも無関係ではあるまい。
さてカボ・ヴェルデの音楽といえば、今や押しも押されもせぬ人気歌手Cesaria Evoraの名前が筆頭に上がるが、評価の定まったアーティストをわざわざ紹介するまでもないし、個人的には「Morna」や「Choro」一辺倒の作品はあまり好みでないので、Bana・Jovino dos Santos・Bau・Luis Moraisなどは割愛した。
前置きが長くなってしまったが、Teofilo Chantreは、おそらくカボ・ヴェルデ随一の、インターナショナルな感覚溢れる、音楽に対して柔軟な姿勢のシンガー・ソングライターではないかと思う。まずは彼の2004年の作品お奨めする。その音楽は、スタイルとしてはMornaをベースに、ブラジルやカリブ諸国の音楽が、とても上品にミックスされている。といってもお高く留まっている訳ではない。「心が落ち着く」といえば良いだろうか、納得のいく音楽、これ以上、表現すべき言葉を持たない。なかでも、ひとつ前のライブ・アルバムから参加しているKim Dan Le Oc Machというヴェトナム人ヴァイオリニストの潤いのある音色が、彼等の音楽になくてはならないものとなっている。2005年の夏に南イタリアを旅したときに、Ariano Irpinoという町のフェスティバルで彼と話したのだが、非常に温和で品格のある音楽家、アジア・アフリカ・ポルトガル・ブラジル・カリブと繋がる混血音楽の魅力について、よく理解している人物であった。アジア人だから表現できるテイストを音楽の現場で提示する、またそういう才能を採用できる、ここに新しい無国籍音楽のあるべき姿を見るような思いである。Cesaria EvoraとBongaが、ゲストで1曲ずつ歌っているのが、これまた良い。
So Ma Bo Povo Heroi Miragem d'Amour Caboverdeano Emigrante Segredo e Morabeza Romance na Rebera Pais di Mel Condicao Humana Isis Criola Dona Morna |
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Teofilo Chantre: Terra & Cretcheu (Lusafrica CDLCD1888, 1993) |
Teofilo Chantreは、2005年現在で5枚のアルバムが出ており、どれも入手可能なのでまとめて紹介したい。1993年の「Terra & Cretcheu」がファースト・アルバムであるが、このとき彼は29歳であったので晩生の方であろう。それ以前の音楽活動については、方々調べてみたが、情報は見当たらなかった。まあそんなことはどうでも良い。この作品は、セッション・ミュージシャンに頼らざるを得なかった事情もあるだろうが、まだ彼のアイディアが練り上げられてはいない。その分、シンプルといえばシンプルな演奏が聴かれる。Paulino Vieiraという、あとで紹介するマルチ・ミュージシャンの助力が大きく、アンゴラの若手バーカッショニストRogee Daluuの名前も見える。
Nha Vida e ma bo Anulacao Nha Fe Tonte Vontade Lisa na Luar Relativemente No Ama Soltero e Solto Ilusao di Fuga Vazio |
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Teofilo Chantre: Di Alma (Lusafrica 262382, 1997) |
1997年の「Di Alma」では内容がグッと固まって来ている。これは現在の中心メンバーであるJacky Fourniret (accordion)・Fabrice Thompson (dr)の加入が大きいように思う。この二人がまたええんだ。アコーディオンが固まった事によって、Teoの歌の合間にまろやかな情感が出るようになった。またFabriceのドラムは実に繊細で、リード楽器や歌を盛り上げつつ堅固である。小さな音でも輪郭とバランスが良く、この手の演奏にありがちな、リズムが安易に流れる感じがない。そこがアフリカ音楽たる所以であろう。カヴァキーニョにBauの名がある。他はセッション・メンバーと思われる。
Sina Mamae- Terra Livrona de nha Pai Cruz de Jom d'Ebra Roda Vida Tchoro Quemode Rosario Nha Gloria Vida Vazia Sina de dos Alma Novura Remembering Cabo Verde Ponta Linda |
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Teofilo Chantre: Rodatempo (Lusafrica 362182, 2000) |
2000年のサード・アルバムは、なんといっても「Roda Vida」の大ヒットが大きい。おそらくTeofilo Chantreの名声を確実にしたアルバムではないか。アルバム全編を通してハズレなし。固定メンバーとしては、先の二人に加えてSebastien Gastine (Contrebasse)が加入。これにより、アコーディオンとコントラバスという、摩訶不思議な音空間が、このグループの持ち味として確定した。誠に上質な「アフリカン・サウダージ」
Tchoro Quemode |
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Teofilo Chantre: Live... (Lusafrica 362632, 2002) |
その2年後のライブ・アルバムでは、先に紹介したKim Dan Le Oc Mach (violin)が加入し、ライブではギター・ヴァイオリン・アコーディオン・ウッドベース・ドラムスというのが基本編成となった。前のアルバムからヴァイオリンは採用されているが、やはり専属メンバーが決まった事で、楽曲との融合具合が格段に違う。また、ヴェトナム人の感性だろうか、実に細やかな部分と激しい部分が微妙にミックスされていて、この5人で編成が固まった感がある。ゆっくりと着実にメンバーを増やしてここまで練り上げて来た上で、決定的なライブ・アルバムを世に問うたという自信にあふれている。Teofilo Chantreを集めるなら、リリース順を逆に辿るのも方法だと思う。
Cesaria Evora: Papa Joachin Paris |
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Various Artists: The Soul of Cape Verde (Lusafrica 08775-2, 1996 ) |
カボ・ヴェルデ の音楽を概観するには、大変内容の良いオムニバスである。Cesaria Evora・Bana・Titinaの熟練のMorna、Luis Morais・Bau・Voz de Cabo VerdeのChoro、さらに多くのポップ・ソングとダンス・ミュージックであるColadeira・・・このアルバムからアーティストごとに追いかけて行くのも楽しい。個人的には、上に挙げたTeofilo Chantreのほか、Tito Paris・Maria Alice・Simentera・Paulino Vieiraを追いかけるきっかけとなった編集盤である。Lusafricaの看板CDであるため、そうそうなくなりはしないだろうが、発売が古いので早めに手に入れておかれるに越した事はない。
Fantcha: Mi e dode na Cabo Verde |
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Various Artists: Alma, The sound from Cape Verde (Anima Music AJCD0023) http://www.animamusic.com |
Anima Musicという、ワールド・ミュージックの新興レーベルからの発売、日本盤である。上の「The Soul of Cape Verde」との重複は「Simentera: Dia C'Tchuva Bem」のみ。この曲は名曲ですな。他に注目すべき点としては、2004年の10月に亡くなったIldo Loboの曲が収録されている事と、「The Soul of Cape Verde」でCesaria Evoraが歌っていた「Papa Juquim Paris」(スペルは原文のママ)をBauがインストゥルメンタルで演奏している点。先にも紹介した通り「Teofilo Chantre: Roda Vida」は名曲中の名曲なので、これから入るのも良いと思う。同じレーベルからもうひとつ同じジャンルの白いアルバムが出ているが、それはちょっと別物。
Jovino dos Santos: Nha Regresse Lutchiana: Mae Criola Jorge Sausa: Testamente de Mari-Matchin Teofilo Chantre: Expulsao Jose Neves Zeca: injuria Morgadinho: Nos Vida na Terra Longe Dulce Matias: Cartinha de Nha Terra Rene Cabral: Confissao dum Pai Emigrante John Euclides/ Dina: Lembranca de nha Exilio Nana Matias: Pays Sol Mario Ramos dit Mario Pop: Abrime Bo Porta Escabeth: Testemunho de Gratidao Jovino dos Santos: Porte Grande |
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Various Artists: Le Cap Vert d'aujourd'hui- Ex/ilhas (Mario Silva 3034262, 1997) |
ダサいジャケットやし、なんか人気歌手Jovino dos Santosの曲で始まりJovino dos Santosの曲で終わっとるなあと思っていたら、彼の作曲による14曲の未発表曲の編集盤である。Teofilo Chantreの「Expulsao」は実に不思議な曲調なので、彼のファンには特にお奨め。ほかは名前も知らないが、演奏内容は非常に良い。特に好きなのは「Rene Cabral: Confissao dum Pai Emigrante」緊張感に満ちたサンバで、独特の声が、なんとも知れず惹き付けられる。十分な資料が貼付されていないので何ともいえないが、ここに収められたアーティスト名をたよりに、また探索したくなるような曲が並ぶアルバムである。
Various Artists: Musique du Monde; Cap Vert, Anthologie 1959-1992 (Budarecords 92614-2) | |||||
CD 1; Fernando Quejas: Carta di nha Cretcheu Fernando Quejas: Nha Code Amandio Cabral: Xandinha Djosinha: Intentacon di Carnaval Titina: Tanha Centaurus: Carinha di bo Pai Ritmos Caboverdianos: Saiko Daio Bana: Uma vez Sao Centre era Sabe Bana: Sampadjuda Djosinha: Stora d'Nha Vida Djosinha: Abol sem Brincadera Luis Rendall: Doriz Humbertona: Grito de Dor Tututa: Nutridinha Chico Serra: Fidjo Magoado Morgadinho: Resposta di Segredo cu Mar Luis Morais: Infelizmente Conjunto Kola: Tabanka Frank Mimita: Hora ja Tchega Tubarques: Djosinho Cabral Tubarques: Alto Cutelo Tubarques: Tema para dois Noberto Tavares: Largan di nha Sulada |
CD 2; Bulimundo: Bulimundo Bulimundo: Brageru Zeca: N'ka por si Zeca: Pila ku nha boi Caetaninho: Toti Lopi Finacon: Fomi 47 Travadinha: Toi Cesaria Evora: Mar Azul Bana: Verdeaninha Bana: Avenida Marginal Titina: Terra Longe Celina: Nha ma Florinda Dany Silva: Nha Mudjer Cabo Verde Show: Oh Desgostos nes Terra Boy Gemendes: Grito de bo Fidje Tubarques: Fitch um Odje Tubarques: Nha Terra Scalabrode Finacon: Entri Spadai Paredi Finacon: Si Manera Cesaria Evora: Angola |
Buda Recordsの「Musique du Monde」アンソロジーのカボ・ヴェルデ編。このシリーズは内容が良く、安心して購入できるのでお奨めである。2CD、全43曲、総演奏時間148分、44ページの豪華ブックレット付きの1959-1992年カボ・ヴェルデのポピュラー音楽のアンソロジーである。内容は非常に濃く、話題に上るアーティストの殆どが網羅されている。また、全ての曲にエディションや発表年などの詳細の他に、その曲のスタイルが記されている。いわば学究的な資料として最高の出来ではないか。解説は英訳もあり、写真も多数。おすすめであるが、2005年現在、Buda Recordsのカタログにないので、見つけ次第購入される方が良い。
Sodade de nha Terra |
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Paulino Vieira: Nha Primero Lar (Lusafrica 79859-2) |
Paulino Vieiraという人は、上のコンピレーションやアンゴラのミュージシャンの録音にも何度も名前の出る人であり、シンガー・ソングライター、マルチ・プレイヤー、アレンジャー、プロデューサーである。このアルバムの感触は実に摩訶不思議である。ジャケット写真は、おそらくカボ・ヴェルデの風景を撮ったものであろう。分厚いブックレットが付いていて、その中に古くて不鮮明な風景写真や、遺跡の写真、古い時代のミュージシャンの写真などが載っている。フランス語のライナーを拾い読みしてみると、どうやら自分の父に捧げたオマージュのようである。曲は非常に素朴で、カボ・ヴェルデの音楽が、ともすれば安易な情緒に流れやすいのに対して、かなりドライな印象を受ける。そして、曲間の随所に挿入された民俗音楽や雑踏の音・・・、ますます不思議なアルバムである。内省的な印象の作品。
Tito Paris: Graca de Tchega Um Ten Graca de Tchega |
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Tito Paris: Danca ma mi Criola (MB Records: MR-0007, 1994) O Pretinha |
Tito Parisは、かなりモダン・ズークに傾倒したお洒落な音作りをしている。カボ・ヴェルデがどうのということなしに、少し哀愁を帯びたお洒落で変わったダンス・ミュージックという点で、一般的にもっと聴かれてもよい作品だといえる。 彼はとてもかっちりしたギターを弾くギタリストであり、少し高いカスレ加減の声を持つシンガー・ソングライターであり、プロデューサー、アレンジャーとしても、カボ・ヴェルデに限らず、アンゴラのミュージシャンの録音に良くその名を見かける。現在7枚のリーダー・アルバムを確認しているが、最近のものは技術に走り過ぎる嫌いがあるので、少し古いがこの二枚をお奨めしたい。これ以降のものも比較的入手しやすいようなので参考までに聴かれると良い。まだまだこれから活躍の期待されるミュージシャンであり、ライブ録音も素晴らしいので、引き続き追いかけて行きたい。
Crumuxa Sol na Tchada Falso Testemunho Laura Velha Bichica Sonha na bo D'zemcontre Novo Olhar Nesosofre Nhas Ais |
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Maria Alice: D'zemcontre (Lusafrica 08765-2, 1996) |
先の 「The Soul of Cape Verde」に収録されている「Falso Testemunho」という曲が、実にアクの強い、意外な展開を持つ深い味わいの曲であったので、気に入って買ったアルバムである。調べてみると、Alice MariaというFadoの歌手のデータと混じって出て来るが、明らかに別人。張りのある高めの声が美しく、力強さと繊細さを併せ持つ歌い手。特にMornaにこだわっているところは見受けられないが、Mornaを歌うと伸びやかな美声が生きる。お目当ての曲以外はわりとポップな感じで、そのなかであの曲が選ばれたということが、逆に先のオムニバスの見識を伺わせる事になった。ホーン・アンサンブルをシンセサイザーで代用しすぎていて、ない方が良いくらいに聞こえるのが惜しい。
Intro (Manche) A Mar Codjeta Coraconi Nha Code Homenagem Raiz Resposta di Segredu cu mar Fomi 47 Dia C'tchuva Bem Apili Barro e Voz 'Sprito Levi Ramboia Coda (Manche) |
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Simentera: Raiz (Lusafrica 79588-2, 1999) |
これも、先の 「The Soul of Cape Verde」に収録されている「Dia C'tchuva Bem」という曲が気に入ったので買ったアルバムである。調べてみると、彼等はパーマネントなバンドであり、既に4枚のアルバムが出ている。女性3人を含む10人のメンバーがクレジットされている。そして全員が歌えるという事が、このグループの音楽性を非常に豊かなものにしている。内容は非常にバラエティに富んでおり、ひとつとして同じ曲相のものはない。とくにお目当ての曲は、イントロと歌い出し、そして終結の部分が、それぞれ全く異なる印象を持っており、静かで美しいながら、全く意外な他のどんな音楽にも似ていない、そういう意味では既成概念に捕われていない自由な音楽であるといえる。1曲の中でリード・ボーカルが入れ替わったり、個々の音処理や効果音に到るまで、非常にていねいに作り込まれた、静かだが野心と情熱に満ちた作品である。おすすめ。