「ブラジル移民100年祭」に複雑な想い


CAP HOUSEの終焉


 「ブラジル移民100年祭」という催しに喚ばれて演奏に行って来た。場所は、神戸北野の西にある「旧移民センター」・・・私にとっては、旧「CAP HOUSE」である。ここは、2004年に「ショーロ学校」の舞台ともなって、その写真も多くとらせて頂いたのであるが、http://web.mac.com/jakiswede/iWeb/312fetes/3124ofichoro2004.html もとはといえば、1928年に建設され、日本から南米へ移民して行く人たちの一時宿泊と研修を目的とした施設であった。その後、神戸市医師会の準看護学校や、神戸海洋気象台の庁舎として使われ、さらに、NPO法人「The Conference on Art and Art Projects (芸術と計画会議)」が、1999年に当時空きビルとなっていた建物を利用して、「CAP HOUSE - 190日間の芸術的実験」という半年間に亘る催しが行われた場でもある。CAPに集ったアーティストたちは、開かれたアート・スペースをめざして、建物の3-4階部分をアトリエとして公開し、8年間に亘り、様々なイベントなども企画して来られたが、建物の所有者である神戸市が、これを改修するにあたって2007年を以て当該建物での活動を終了された。アーティストは全員退去され、今後は場所を移して活動を継続されるとのことである。http://www.cap-kobe.com この建物、現在は「関西ブラジル人コミュニティ」が管理しておられ、来る5月より約1年間の改修工事に入り、一般者が見学出来るのは今週一杯。現在1-2階部分は、日本人がブラジルへ移民した関係資料の展示に使われ、3-4階は、CAPメンバーが退去された当時のままに残されている。この建物は80年の歴史があり、ツタの絡まる古い趣の建造物で、内装のすばらしさもまた目を見張るものがある。特に、アーティストが製作に打ち込んだアトリエ跡地の3-4階の各部屋は、さすがは神戸と思わせる、本物のエキゾチシズムで満たされていて、空き室となった今なお、アーティストの息吹が感じられてならない。しかし、改築によって、この空気は恐らく公的な装いに衣替えされるのであろう。




 80年もたつ建物であるから、いずれ手を加えなければならないのは必定である。しかし、2004年の「ショーロ学校」の時も、その関西ブラジル人コミュニティからは、この建物を「CAP HOUSE」と呼ぶ事に難色が示された。しかし、永らく空き家となり、荒廃していた建物を掃除し、修復し、神戸らしい芸術空間としてここまで持たせてきたのは、まぎれもなくCAPのメンバーたちである。2008年が、ちょうどブラジルへの移民が始まって100年になるのを記念して、神戸市がイベントを企画するのに合わせるように、2007年を持ってCAPの活動は打ち切られ、あれよあれよという間に、まるで「ブラジル移民資料館」のような体裁に改められてしまった事には、戸惑いを禁じ得ない。この建物の保存が決まった事は喜ばしいが、CAPのメンバーたちの活動なくしては、それはあり得なかっただろう。神戸市としても、ややもすると独りよがりになりがちな前衛芸術家のためにこんなロケーションの良い場所を開放しておくよりは、「ブラジル移民資料館」として保存した方が、大義名分としてはわかりやすい。しかし、建物80年の歴史に貢献した彼等のモニュメントに対して、このような扱いをするという事は、誠に品位を欠く行動だと思わざるを得ない。


Posted: 日 - 4月 20, 2008 at 03:08 午前          


©