Nostalgie ya Mboka

08/27

 今回の旅行最後の日である。Bruxelles Midi駅からLondon行きのEurostarに乗る。切符を買うときに驚いたのだが、往復チケットの値段が片道の約半額なのである。往復は122.50eurosだが、片道は225.00euros。書き間違いではない。片道チケットの値段は、往復の約倍額である。Thomas Cook時刻表日本版や日本の旅行代理店は、Eurostarを日本で手配して行くように奨めているが、私はこういうお奨めを無視するようにしているので、掲載されていた手数料込み金額の半額以下で切符を購入した。帰りのチケットは、もし時間と根気があれば転売できたかも知れない。Eurostarは世界最速を誇る特急列車だけあって、余りに早く着いてしまうので、話の種にはなるが旅をしている実感がない。ドーバー海峡をトンネルでくぐったのも良く解らなかった程だ。しかし、隣り合わせたおねえちゃんはチャーミングだった。

London Warterloo駅・・・イギリスの鉄道には架線がないのか?

 さて、London Warterloo駅に着いた私を尚乃さんが出迎えてくれた。懸案の、まずくて喰えん程のイギリス料理の代表として、「Fish and Chips」があるのを忘れていたと言うと、駅前に、いかにも脂ぎった壁を持つ、胸焼けのしそうな匂いを発するFish and Chips屋があるが・・・と言うので、いやがる尚乃さんを引きずるようにして入って行った。「おお、君たちとってもラッキーね。さっき油を換えたとこなんだよ。」余計な事しやがって、ものごっつい旨いやんけ。

 Fistonと合流して彼のスタジオへ向かう。彼はロンドンに居を構えて既に10数年、自分のスタジオを持ちギターを教える先生でありスタジオ・ミュージシャンでもある。結構忙しくしているようで、今日も夕方からライブだから遊びに来いと言う。ううむ。実は、当初ロンドンの滞在を二日以上予定していたのだが、イタリアが面白すぎて日延べしているうちに余裕がなくなって、「夕方には空港に行かなければならんのよね」と言うと、「おいイタミ、お前は俺たちの14年ぶりの再会をなんと心得とる?」と言うて怒り出した。尚乃さんと何とかなだめつつ、Nostalgie ya Mbokaというネット・ラジオの収録の行われているVincent Luttman氏の自宅へ行くと、私の出演するひとつ前の番組の収録中であった。

Net Radio "Nostalgie ya Mboka"

 Papa Kondeと呼ばれる思想家がインタビューされる形となっていて、話の内容はパリでPapa Noelとした話題と共通する。すなわち、現在のコンゴ・ポピュラー音楽界の現状はNdombolo一色で、どのオルケストルもやってる事に違いはない。ただただパトロンに媚びへつらい、褒めちぎった後踊り狂うという、たちの悪いばか騒ぎである。もっとも、アフリカ音楽のほとんどが、伝統的に宮廷音楽という側面を持っているので、阿諛追従の輩が歯の浮くような美辞麗句を恥ずかし気もなく撒き散らすのは致し方がないともいえるが・・・云々・・・。

 しかしながら、真に聴くに足る音楽は、なんといっても1960年代のルンバ、またはその時代を生きたミュージシャンの現在の再録音である。ところが古い音源は散逸しているか保存状態が悪く、復刻盤も単なるレコード盤から起こされたものやコピーからのマスタリングで、せっかくの情感が台無しにされている。古い音源の再リリースをしていたNgoyartoが倒産した今、組織的な音源の発掘はさらに困難になった。発掘は膨大な作業で、埋もれた名曲が見つかっても、それをCD並のクオリティにまで持って行くのは並大抵の事ではない・・・云々・・・。

 彼は、さらに憂国の思想家でもある。イギリスやヨーロッパに出て来て、街でたむろするゴロツキが本国を滅ぼすという。彼等は、ヨーロッパ各国の移民優遇政策のおかげで、潜り込みさえすれば働かなくても生活は保障されているに近い。ただやってきて食わせてもらって一生を終わる。それだけだ。しかもたちの悪い事に、パスポートを偽造し、政治的被迫害者に成り済まして流れ込む奴らがどんどん増える。コンゴの西半分は良くなったが、東半分は未だ別の国だ。キンシャサが安定するとそこへ地方から人が流入し、一部は金を蓄えて、渡欧する奴が増える。しかし今は良いが、先進国のこの移民優遇政策が何時変更されるかはわからない。ゴロツク事しか知らぬ馬鹿者どもが本国に送り返された後どうなるか、それが心配なのだ、と・・・云々・・・。

 話を聞いているうちに夕刻となり、早くも空港へ発たねばならぬ時刻となった。結局ロンドンはさして観光も出来ず、行き帰りに立ち寄っただけに終わってしまったのは残念である。若い頃に心酔したカンタベリーの雰囲気に浸ったり、おいしいスコーンをかじりながら午後の紅茶を英国風の庭園で、という時間も欲しかったが、全ては業の深い音楽愛好家ゆえ諦めねばならぬ。狭いチューブの車窓に広がる、夕暮れの芝生で遊ぶ家族の様子を目に焼き付けながら、旅を終える事にしよう。地下鉄の駅の切符売り場の、やたら威勢の良いエディ・マーフィー風の黒人のおしゃべりが、旅の終わりに沈む心を慰めてくれた。「Hey! 空港へ行くのかい。日本へ帰るのかい。そりゃいいや。こんなクソみたいな街はな、bomb!ってな、一気にfuckされればいいんだ。いいか日本人よく聞け。3ポンドと80だ。高いだろ? Good luck!」

Heathlow空港の廊下で出発を待つ(大韓航空)

08/28

 関西空港定刻通りの20:45着。空を飛んで来るもんが、ようもまあ定刻通りに着くもんや。豚丼を食って阪急バスに乗って帰る。わざわざ遠いとこ行かいでも結局これが今回の旅行で一番まずかった。23:30帰宅。明日からすぐ仕事やんけ。あーしんど。

  


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