「琵琶を聴く会」


夏の夜の怪談



 和楽器ユニット「おとぎ」川村旭芳 (筑前琵琶弾き語り)・木場大輔 (胡弓)・折本慶太 (箏・十七絃)・安田知博 (尺八・笛・朗読)。ゲスト出演: 瀬口昌生・助演: HISAKO。百姓友達の加納君は音響屋もやっていて、私も永年の経験があるもんだから時々手伝うのである。この日は、あの「須磨の風」会場の海岸近くにある、神戸市の宿泊施設「シーパル須磨」の和室広間にて「琵琶を聴く会」。いやあ、久しぶりに感心しました恐れ入りました。だいたい和楽器とか伝統音楽でもって、何かオリジナルをやったり現代の音楽や向洋の音楽をやったりすると、げんなりするほどしょーもないもんしか出来んもんなんやが、いやあ参りました感じ入りました。仕事してて良かったです、あなた樣方とともに舞台が出来て良かったです。素晴らしい。和楽器ユニット「おとぎ」? だいたい琵琶と胡弓と箏と尺八やなんて、時代考証も倒錯してるし、他流試合も甚だしい、どうせ安易なコラボレーションやろから、てきとーにマイク繋いでふてぶてしい態度とって思いっ切りイケズしたろ思とってんけど、いやあ聞き入りました夢中になりました。イケズなんかせんで良かったです、あなた樣方とともに時が過ごせて光栄です。いやほんまに素晴らしい。なにが素晴らしいというて、それはもう例えようのない程すばらしいのであって、とにかくそれほど素晴らしかったのである。演し物は、小泉八雲の「耳なし芳一」と雨月物語から「吉備津の釜」。これがまた、きちんと詳細にわたる台本が用意されてて、皆さんそれ全部暗記してはる。まああたりまえのことなんやが、それでもこれはふたつの物語に、ランダムな効果音として各楽器演奏が配置されていたり、幕間の音楽として合奏形式のオリジナル曲があったりと、まさにシンプルで幽玄な日本の音楽劇の粋をいったはります。いやらしいとこやこじつけたり不自然なところは微塵もない。ひとつの格別なる、オリジナリティと誇り高きアイデンティティを持った、日本の新しい古典音楽とでも申せましょうか。いや素晴らしい。これがたったの2,000円で見られるとは、なんぼ市の助成が入ってるからというテも、なんぼなんでも安すぎる。しかし情宣が足りなかったのか、客席は残念なほどまばら、しかも明らかに地元からタダ券もらって涼みに来た風情の部屋着のママのご老人が多く、これは可哀想であった。それでも出演者たちの熱演は手抜きなく、ぐいぐいと客を引き込み怪談の世界へ。川村旭芳の筑前琵琶の演奏とおどろおどろしい物語りは情念を孕み、木場大輔の胡弓はまさに霊魂の浮遊するがごとく、折本慶太の箏は流れ行く時を捉えて足許に引きずり降ろし、なんといっても盲目の笛・尺八奏者の安田知博の幽玄の音の流れと芯の低い声による朗読・・・彼等は穏やかで自信にあふれ、人格的にも素晴らしく、気負ったところもなくし全体であり、それでいてすべきことがきちんと手の中で熟成されていて、変幻自在の一個の生命体のようであった。ゲスト出演の瀬口昌生は、本職は俳優であり声優でもあって、その声の表情と語り口の自在さは、まさに「話芸」というに値した。助演のHISAKOは、ほんのちょい役ではあったが、現場での変更にも全て笑顔で対応し、私の妹と見まごうほどの美貌が幽霊としてのすごみをいや増した。このような演奏家集団があったとは、もっと評価され、厚遇されてしかるべきアーティストである。すごい。

http://www4.ocn.ne.jp/~kyokuho/

Posted: 土 - 8月 22, 2009 at 11:23 午後          


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