ドラムペダルの名機FP-720入手


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 サンバのドラムを頼む・・・などとヘタクソな俺に頼んで来る人があって、ブラジル音楽のことなんてなーんにも知らん俺にそんなこと出来るはずがないんやが、どうせやるなら、ちゅうか、カネの残ってるうちに自分に取って大切なものは手に入れておこうと思い立ち、捜しはじめたのである。ドラムに使うフットペダルについては、ここ にまとめて書いたから興味のあるひとは読んでもらうとして、このFP-720というペダルは、ヤマハが発売した、当時としては新しいタイプのベルト・ドライブのペダルである。それまでのペダルの主流は、ラディックというアメリカのメーカーの「スピード・キング」という名機があって、国産のものはだいたいこれを模倣したものであった。その駆動方式は、今でいう「ダイレクト・ドライブ」というもので、要するに、回転するカムと足を乗せるボードを、単純に金具で引っ掛けたものであった。ボードの先端の、ほぼ上下運動を、カムの回転運動に直接変換する訳だから、踏み込みが重くて真ん中が軽く、そこで速力を増してビーターが皮を打つときに力が増幅されるという仕組みである。いまとなっては、これは決して使いやすいものでなく、また名機といわれた「スピード・キング」も、何台か使わせてもらったことがあったが、そんなに使いやすいものとはいえなかった。しかし、私がドラムを始めた頃は、この方式のものしかなかった。たしか高校の頃、このFP-720の前身であるFP-701が発売されて、学校の近所のスタジオに備えられた。踏み初めの重いペダルに慣れた足には、何か頼りなく感じられたが、次第にその感触に慣れて行くと、細かいフレーズを踏めるようになった。そのうちコのペダルは、国産ペダルのスタンダードとなり、たいていのスタジオ、たいていのライブハウスに常備されるようになった。だから、当時のドラマーは、わざわざこれを買うことなど考えていなかった。しかし、たしか1990年代に、このペダルが突如生産終了となり、巷から消えた。どうせまた新製品が出ると思っていたから焦りはしなかった。しかし同じ仕様の新製品は出るには出たものの、とてもあの軽快さにはかなわなかった。FP-720に慣れた足には、どんなペダルも重たく感じられた。現在でもこれが名機として語り継がれる理由は、もちろん優れた製品であったのだが、なにより余りにも一般的であり、その時代にドラムを叩いていたひとの多くが、この感触をもとに自分の演奏を組み立てていたからである。



 さて、このペダルはそのようなわけで、現在も復刻されず、当のヤマハでさえこれを再現出来ないでいるので、探し求めているドラマーが多い。生産が終了し、パーツもなくなった当時ほどではないが、中古品がいまでも結構高値で取引されている。私も、当時はよく捜したものだが、あまりの高値に諦めた。しかし、やはりドラムを続ける以上、あの感覚は大切にしたい。足許に不満があるとストレスになる。そこで、サンバのバッキングを頼まれたのを機に捜しはじめた。ある日、ネット・オークションで落札し損ねて、他をあたっていると、神戸にある某有名楽器店の中古品コーナーに店頭在庫で出ているのを確認した。そこで電話を入れて取り置きしてもらい、翌日見に行くことにした。電話で状態を確認したにもかかわらず、店員が出して来たものは、なんと旧型のFP-701か702に720のカムを取り付けた改造品であった。しかも、ベアリング部分のアジャストが不十分で、動きが硬い。店員にそのことを指摘すると、にやにやしながら半端物のパーツの寄せ集めであることを認めた。値段も結構ご立派だった。「現状でよければ」というので、「そういうこととちゃうやろ、FP-720でないのに720として売るな、これは不当表示やぞ」「ですので現状で・・・」あかん、忙しい田んぼの除草取りやめてわざわざ神戸まで出て来て、駐車場代まで払うて見に来とんのに、なんやこの対応・・・



 このような不正改造品が往年の名機の名を騙って売られているようなので、ここに正しいFP-720の特長を掲げておきたい。上の2枚の写真で、ほぼFP-720の判別が出来ると思う。まずビーターの取り付け位置が、カムの軸よりもかなり外側についている。720の前に710というのがあって、これはもう少し中心に近い位置にビーターが付けられ、ベルトの巻いてあるドラムの中空になっている側が左右逆向きであった。710と720は、バス・ドラムのフープに取り付けるクランプの幅が広くなって安定し、それを締め付けるねじが本体左側に移されて改善されている。



 ビーターの踏み出し角度を決めるアングル・プレートは3つ穴で、バネを通すローラーは、初期型が金属製、後期型がプラスチック製で、私の手に入れたものは後期型になる。そのバネのテンションを決定するフレームとのジョイントはダブル・ナットである。また、ボードの寸法が長い。FP-720の優れていたのは、おそらく他の同じ仕様のペダルと比べて、各パーツの微妙な重さのバランスが良かったからだと思われる。その神戸の楽器店のウェブサイトには、中古品がたいてい写真付きで掲載されているが、FP-720の写真はなかった。つまり、写真を掲載すれば、みるひとが見れば偽物とわかるからである。つまり彼等は確信犯であったのだ。寄せ集めパーツでは、夫々の重さが違うから、全くあの軽快さは出ないのである。ましてや、ベアリングの調整が出来てなければなおさらである。店員の態度にあまりにも腹が立ったので、そのチェーンの本社の方にクレームのメールを送ったら、数日して詫びメールが来た。ウェブサイトからも商品は削除されていた。反省してるみたいやから、まあ企業名だすのんは勘弁しといたろ。そんなことがあって、まあダメもとち思いながらも、谷町9にある、長いつきあいのドラム専門店へメールしたら、なんと数日後に偶然中古で出たという。店の社長とは懇意の中だったので、状態を聞けば問題ないというので信用して注文した。値段も、オークション相場の3分の1程度だった。到着した商品の状態は、全く申し分なく、動作も日所に軽快そのものだった。さあこれで、サンバのダブル・キックでもパラディドルでも、どっからでもかかってこい、全部うけて立ったる。

Posted: 金 - 6月 19, 2009 at 12:30 午前          


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