ザイール・ヤ・バココ「第三の旅」


旅の構想・ブラジル編



 今年の6月から8月にかけて、自分の人生で多分最後になるであろう、大掛かりな旅を計画している。きっかけは、大阪で仲良くしてくれているブラジル音楽愛好家のうちの何人かで、6月にブラジル北東部で行われる「サン・ジョアンの祭」を見に行こうと誘われた事だった。この祭については詳しくは知らないのだが、アフリカから渡った民間信仰とブラジルに伝わったキリスト教が融合して、音楽を中心とした祭りに結実したものらしく、ブラジル北東部の諸都市で6月の毎週末に、かなり大掛かりに行われるらしい。中心地はFortalezaだが、その西にあるSao Luisでは、「Bumba meu Boi」という、パーカッションを中心とした祭りも行われ、ひと月かけてブラジル北東部を渡り歩くと、なかなか貴重な音楽的体験が出来るという。
 私は、かねてからブラジル音楽に親しんでは来たが、演奏上のある一定の部分で常に違和感を感じて来た。自分なりのキャリアの中で、自然に演奏に反応すると、共演者から「それは違う」と指摘されるのである。その場では、取りあえずアンサンブルをまとめる必要性から指摘に従うのであるが、どうも釈然としない。釈然としない気持ちを正直な方で持っているから、次に似たような場面に遭遇した時に、また同じ事を繰り返す。しかし、同じような状況で、コンゴやアンゴラの人たちの演奏を良く聴いてみると、私の反応で違和感がない。ブラジル人の演奏でも、あながち自分の反応が間違っているようには思えない。しかし、日本人のブラジル音楽演奏家たちからは、かなり強い調子で、「それは違う」と指摘されるのである。
 この旅の目的のひとつは、実際にブラジルでブラジル人たちが様々なブラジル音楽を、どのように演奏しているのかを、この目で見てこの耳で聞く事である。はじめはカルナヴァルを見に行こうかと思ったのだが、友人のブラジル音楽愛好家から、落ち着いて音楽を見聞するならば6月が良かろうと奨められてそうする事にした。コンゴやアンゴラの音楽に親しんだ耳で、改めて生のブラジル音楽を聞き、出来れば現地のミュージシャンと音遊びする事が出来れば、それは私の音楽的なキャリアの幅がぐっと広がるに違いない。なんといっても、コンゴの音楽の演奏法に関しては、誰がなんといおうと自分の見て来た物が正しいと言い切れる自信がある。しかし、ブラジルの音楽に関しては、実際のところ何も知らないのだ。そこをはっきりさせることができれば、ひとつひとつの音の出し方に、揺るぎない確信が持てる。それはなにものにも代え難い。
 さて、旅の実際であるが、まずはポルトガルのリスボンへ飛ぶ。そこでポルトガル語圏アフリカ諸国の移民たちの音楽シーンの中心的存在の何軒かの店をハシゴした後、ポルトガル航空 (TAP) でFortalezaに飛ぶ。恐らくここからは、大阪から行く皆と同一行動になるだろう。ただ、彼等はブラジル往復、私は大西洋を渡るので片道切符となる。名古屋のブラジル領事館とのやりとりのなかで、本来観光ビザの発給には、入出国とも航空券と提示が必要であるが、そこは経路さえ明確であれば、片道切符でも差し支えない旨、了承を得ている。ブラジル入国後は、私はSao Luisの「Bumba meu Boi」の祭を見に行くが、他の皆はFortalezaにとどまり、6月第3週の「サン・ジョアンの祭」を待つそうである。私はその間、恐らくRecifeとOlindaへ参るであろう。コンゴ人でEthnomusicologyの権威であるKazadi wa Mukuna教授と、調査をする約束が出来ているからだ。ブラジル北東部の行程の大部分は、なんとリンガラ語で間に合う事になる。ここにもコンゴ人が多く住んでいるからだ。そして6月末には、アンゴラへ旅立つ為にRio de Janeiroへ向かう。途中、バスで浜辺の街に寄り道するのも良かろう。ここからは一人旅である。

Posted: 木 - 1月 3, 2008 at 06:44 午後          


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