Librerie Arcade閉店


アクセサリー・ショップへ



 阪急梅田の「かっぱ横丁」に古本屋街が古くからあって、そこに「Librerie Arcade」という芸術洋書の専門店がある。たしか阪急三番街が出来たのが私が中学の頃、かれこれ35年くらいまえのことと記憶するので、その頃からこの店はあった。当時の私は、友達と遊ぶよりもヨーロッパのロックを聴いたり古本屋をハシゴしたりするのが趣味の、きわめて暗い少年だった。数ある古本屋の中で特に異彩を放つこの店を見逃す訳がなく、多分私はこの店ができた当初からちょくちょくお邪魔していた。芸術洋書の専門店であるから、陳列されている本はどれも立派で高価で、まあ先方も中学生がこんなもの買えるはずがないから、遊びに来てるくらいにしか思ってなかったのであろう。お邪魔しても全然悪いようにされなかったし、置いてある本はどれも綺麗で目の保養にはもってこいだった。当時からモノクロ写真が好きだったので、写真集ばかりあさっていたら、本物のプリントと印刷とがどれほど違うものか、また印刷の程度によりどれほど変わるものかを教えてくれたりもした。そんな雑談の最中に、よくパリから電話がかかって来たりした。流暢なフランス語で取引をしておられる。訊けば、美術品のオークションを代行しておられる様子で、上客をかなり持っておられるようだ。だから、店でものを売るというのではなく、連絡場所として店を構えているという感じで、忙しくしておられるのを見たことがない。とにかく話し好きで飽きなかった。働きはじめてから、今までに数冊の本を買ったことがある。初めはブレッソンのポートレート集だった。最後は、舌癌で入院する直前に買った、ホルスト・ヤンセンの風景画集である。客でもないのに、いつ言っても笑顔で迎えて下さる。このような店を知っているというだけで、心のどこかに豊かな気持が持てる。なくなってしまうのは惜しい・・・と思って最後に伺ったのだが、どうやらなくなるのではなくて、アクセサリー・ショップに鞍替えして、事実上弟子に任せるようだ。阪急との関係か、古書店の組合かなにかとの関係か、権利を譲渡するのが難しいのかも知れない。名前だけ残して、自分は手を引く、そのかわり店は少しイメージ・チェンジして存続する。まあ、つながりが切れる訳ではなさそうなので、先ず良かった。

Posted: 金 - 2月 27, 2009 at 11:58 午後          


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